WordPressのマルチサイトとは

WordPressマルチサイト機能とは、1つのWordPressインストール環境を利用して、複数の独立したWebサイトを一元的に管理・運営できる機能です。

通常、WordPressで新しいサイトを立ち上げる際は、その都度WordPressシステムをサーバーにインストールする必要があります。 しかし、WordPressマルチサイト機能を利用すれば、最初の1回のインストールだけで、後から管理画面を通じて複数の新しいサイトを追加できます。

ネットワーク管理者とサイト管理者の役割分担

この機能を利用すると、「ネットワーク管理者」という最上位の管理者が、ネットワーク全体の設定や共通テーマ・プラグインの管理を行います。 各サイトにはそれぞれ「サイト管理者」を配置して、個別のコンテンツ作成やサイト設定を行わせる階層的な管理体制を構築できます。

サブドメイン形式とサブディレクトリ形式の違い

WordPressマルチサイトで作成される各サイトのURLの形式は、大きく分けて「サブドメイン形式」と「サブディレクトリ形式」の二種類から選択することになります。

サブドメイン形式はsite1.example.comやsite2.example.comのように、元のドメイン名の前にサイト固有の名前が付く形式です。
一方、サブディレクトリ形式はexample.com/site1やexample.com/site2のように、元のドメイン名の後にサイト固有の名前が付く形式です。

どちらの形式を選択するかは、以下の要因を考慮して検討する必要があります。

• 既に運営中のサイトに後からWordPressマルチサイトを導入するか、新規に立ち上げるか
• 利用するサーバー環境でどちらの設定が推奨されているか
• Webサイトの構成計画など技術的な条件

特に重要なのは、一度設定すると後からの変更が困難という点です。 そのため、導入初期の段階で慎重に決定することが重要です。

WordPress「マルチサイト」の3つのメリット

WordPressマルチサイト機能を導入することは、特に複数のウェブサイトを効率的に管理・運営したいと考えている企業や組織にとって、多くのメリットをもたらします。管理作業の効率化からコスト削減、ブランドイメージの統一に至るまで、その利点は多岐にわたります。

管理作業の効率化からコスト削減、ブランドイメージの統一に至るまで、その利点は多岐にわたります。

ここでは、WordPressマルチサイト導入によって期待できる主なメリットについて解説します。

メリット1. 管理効率の大幅な向上

複数サイトを個別に管理する場合と比較して、WordPressマルチサイト導入による最大のメリットは、管理・運用作業の効率化です。

例えば、WordPress本体、テーマ、プラグインにアップデートが必要になった際を考えてみましょう。 個別のサイトであれば一つ一つログインして更新作業を行う必要があります。 しかし、WordPressマルチサイト環境では、ネットワーク管理者が一度の操作でネットワーク全体にアップデートを適用できます。

これにより、作業時間の大幅な短縮はもちろん、更新漏れによるセキュリティリスクの発生も防げます。 同様に、新しいユーザーアカウントの追加や権限変更なども、ネットワーク全体のユーザーを一元的に管理できるため、手間が削減されます。

メリット2. コストとリソースの削減効果

WordPressマルチサイト環境では、ネットワーク内の全てのサイトで同じテーマやプラグインを共有して利用することが基本となります。これは、サーバーのディスクスペースの節約に直結します。

個別にサイトを構築する場合、サイトごとにテーマファイルやプラグインファイルを保存する必要があります。 しかし、WordPressマルチサイトでは共通のファイルを参照するため、サイト数が増えてもディスク使用量の増加を抑制できます。

さらに、有料のテーマやプラグインの中には、WordPressマルチサイトライセンスや開発者ライセンスを提供しているものがあります。 これにより、サイトごとにライセンスを購入する場合と比較して、トータルでのライセンス費用を削減できる可能性があります。サーバー自体の契約も一つで済む場合が多いため、サーバー維持費用という観点からもコストメリットが期待できます。

ただし後述するように、WordPressマルチサイトはサーバー負荷が高くなる傾向があります。 そのため、結果としてより高スペックなサーバーが必要となり、単一サイトを複数契約するよりもコストがかかるケースも考慮する必要があります。

メリット3. ブランド統制の容易化

企業グループや組織内で複数のサイトを運営する場合、ブランドイメージやデザインの一貫性を保つことは重要です。WordPressマルチサイト機能を利用すれば、ネットワーク管理者が承認した共通のテーマやテンプレートをネットワーク内の各サイトで利用させることが容易になります。

これにより、サイトごとにデザインがバラバラになることを防ぎ、企業全体のブランドガイドラインに沿ったウェブサイト群を効率的に構築・維持することが可能となります。サイト管理者はコンテンツ作成に集中でき、デザインの細部に関する知識がなくても、統制の取れたサイトを運営しやすくなるというメリットもあります。これは、ウェブサイトを通じた企業全体のガバナンス強化にも寄与すると言えるでしょう。

WordPress「マルチサイト」の5つのデメリット

WordPressマルチサイト機能は、複数サイト管理における強力なソリューションとなり得ますが、その導入と運用にはメリットばかりではなく、いくつかのデメリットや注意すべき点も存在します。

これらの潜在的なリスクや課題を事前に十分に理解し、対策を検討しておくことが、WordPressマルチサイト導入の成否を分ける重要な鍵となります。

安易な導入は、予期せぬトラブルや運用負荷の増大を招く可能性があるため、慎重な判断が求められます。

デメリット1. サーバー負荷とパフォーマンスの問題

WordPressマルチサイト環境では、一つのWordPressインストールと一つのデータベースを、ネットワーク内の全てのサイトが共有する形になります。

これは、サイト数が増加したり、各サイトへのアクセスが集中したりすると、サーバーにかかる負荷が単一サイトの場合と比較して格段に高くなる可能性があることを意味します。サーバーのCPUやメモリなどの処理能力が不足している場合、サイト全体の表示速度が遅くなったり、最悪の場合、サーバーがダウンして全てのサイトが閲覧できなくなったりするリスクも考えられます。

したがって、WordPressマルチサイトを運用するには、十分なスペックを持つサーバーを選定することが不可欠であり、サイトの成長に合わせてサーバーリソースの増強を検討する必要も出てくるでしょう。また、パフォーマンスを維持するためのサーバーチューニングに関する専門的な知識が求められる場面もあります。

デメリット2. テーマ・プラグインの互換性制限

WordPressの魅力の一つは、豊富なテーマやプラグインを利用してサイトの機能やデザインを拡張できる点にありますが、WordPressマルチサイト環境においては、このテーマやプラグインの利用に注意が必要です。

全てのテーマやプラグインが、WordPressマルチサイト環境で正常に動作するように設計・開発されているわけではありません。特定のプラグインが他のプラグインと干渉して不具合を起こしたり、WordPressマルチサイト特有の機能に対応しておらず期待通りに動作しなかったりするケースがあります。そのため、新たにテーマやプラグインを導入する際には、WordPressマルチサイトへの対応状況を事前に確認し、十分にテストを行うことが重要になります。

もし利用したいプラグインが対応していない場合には、代替となるプラグインを探すか、場合によってはその機能の利用自体を諦める必要も出てくるかもしれません。

デメリット3. カスタマイズの柔軟性低下

WordPressマルチサイト環境では、ネットワーク全体に共通の設定が適用される場面が多く、これが個々のサイトにおけるカスタマイズの自由度を一部制限する可能性があります。

例えば、ネットワーク管理者が利用できるプラグインを制限している場合、サイト管理者は自由にプラグインを追加・有効化することができません。また、ネットワーク全体に関わる設定変更が、意図せず個別のサイトの表示や動作に影響を与えてしまう可能性もあり、単一サイトの管理と比較して、設定管理の複雑さが増す傾向にあります。サイトごとに全く異なるデザインや機能を実装したい場合には、WordPressマルチサイトの構造が制約となることも考えられます。

デメリット4. セキュリティリスクの集中

一つのWordPressシステムを共有するというWordPressマルチサイトの構造は、セキュリティや障害発生時のリスクという観点からは弱点ともなり得ます。

例えば、ネットワーク内のどれか一つのサイトがセキュリティ攻撃を受けて不正アクセスを許してしまった場合、その影響がネットワーク全体、つまり他の全てのサイトに及ぶ危険性があります。同様に、サーバー自体にハードウェア障害が発生したり、データベースが破損したりした場合も、ネットワーク上の全てのサイトが停止してしまう「単一障害点」となり得ます。

加えて、サイト全体のバックアップや、問題発生時の復旧作業も、個別のサイト構成と比較して手順が複雑になる傾向があり、万が一の事態に備えた運用体制の構築がより重要になります。

デメリット5. 移行作業の困難性

一度WordPressマルチサイトとして設定・運用を開始した後に、元の個別のWordPressサイト構成に戻したいと考えた場合、その作業は複雑で困難を伴います。記事、ユーザー情報、設定など各サイトのデータを個別に抽出し、新しいWordPress環境に移行する必要があり、専門的な知識と多大な時間・労力が必要となるケースがほとんどです。

同様に、WordPressマルチサイト環境全体を別のサーバーへ移行する作業も、単一サイトの移行と比較して手順が複雑になりがちです。データベースの構造や設定ファイルの記述などが特殊であるため、慎重な作業計画と十分な検証が不可欠となります。このような背景から、WordPressマルチサイトの導入は、将来的な構成変更の可能性も考慮に入れた上で、慎重に決定すべきです。

WordPressのマルチサイトが適しているケース4選

これまで見てきたように、WordPressマルチサイト機能には多くのメリットがある一方で、無視できないデメリットや注意点も存在します。したがって、WordPressマルチサイトを導入するかどうかの判断は、自社が運営するウェブサイト群の特性、管理体制、技術的なリソース、そして将来的な計画などを総合的に勘案して、慎重に行う必要があります。

ここでは、どのような場合にWordPressマルチサイトが有効な選択肢となり得るのか、また、どのような場合には他の方法を検討すべきなのか解説します。

一般的に、以下のような特徴を持つウェブサイト群を管理・運営する場合には、WordPressマルチサイト機能の導入が選択肢となってきます。

1. サイト間の関連性が高い1. サイト間の関連性が高い場合

例えば、企業グループ全体のポータルサイトとその傘下にある各事業部門や子会社のサイト群、一つの製品やサービスに関する多言語展開サイト、あるいは特定の地域情報を発信するポータルサイトとその配下にある市区町村ごとの情報サイトなど、コンテンツやブランドイメージ、機能面で共通点の多い複数のサイトを一元的に管理したい場合には、WordPressマルチサイトのメリットである管理効率化やブランド統制の容易さが活きてきます。

2. 基本的なデザインや機能を共通化したい場合

全てのサイトで共通のヘッダー・フッターデザインを使用したい、特定の会員管理システムや問い合わせフォームを共通で利用したいなど、基本的なデザイン要素やコアとなる機能をネットワーク全体で統一したい場合に、WordPressマルチサイトは有効です。

3. 新規サイトを迅速に立ち上げたい場合

既存のネットワーク設定や共通テーマ・プラグインを利用して新しいサイト、例えば新規支店のサイトや新しいキャンペーンサイトなどを管理画面から迅速に追加・展開したい場合に、WordPressマルチサイトは効率的なソリューションとなります。

4. 権限管理を明確に分離したい場合

ネットワーク全体の管理を行う管理者と、各サイトのコンテンツ編集のみを行う担当者を明確に分けたいなど、階層的なユーザー権限管理を行いたい場合に適しています。

WordPressのマルチサイトをおすすめしないケース5選

以下のような特徴を持つウェブサイト群を管理・運営する場合には、WordPressマルチサイト以外の方法を検討することが賢明です。

1. 各サイトの独立性が高い場合

運営するサイト群が、それぞれ全く異なる目的、ターゲット、デザイン、機能を持ち、コンテンツやブランドイメージの関連性も薄い場合には、WordPressマルチサイトによる一元管理のメリットは小さく、むしろカスタマイズの制限などがデメリットとなる可能性があります。

2. サイトごとに全く異なるテーマやプラグイン構成が必要な場合

各サイトで独自のテーマを使用したい、あるいはサイトごとに必要となるプラグインの種類や数が大きく異なる場合には、WordPressマルチサイトのテーマ・プラグイン共有というメリットが活かせず、かえって管理が複雑になる可能性があります

3. サーバーリソースに十分な余裕がない場合

前述の通り、WordPressマルチサイトはサーバーへの負荷が高くなる傾向があるため、利用しているサーバーのスペックに余裕がない場合や、できる限り低コストのサーバープランを利用したい場合には、パフォーマンスの問題が発生するリスクがあります。

4. 技術的な専門知識を持つ担当者がいない場合

WordPressマルチサイトの設定や運用は、単一のWordPressサイトと比較して技術的な難易度が高くなる場面があります。サーバー設定の知識や問題発生時のトラブルシューティング能力に不安がある、あるいは専門の担当者を配置することが難しい場合には、他の管理方法を検討した方が賢明かもしれません。

5. 将来的にサイトを個別に売却・譲渡する可能性がある場合

各サイトが独立した事業体として運営されており、将来的に特定のサイトのみを売却したり、別の運営者に譲渡したりする可能性がある場合、WordPressマルチサイト構成から該当サイトを切り離す作業は困難であるため、他の管理方法を検討した方が賢明かもしれません。

WordPressのマルチサイト運用以外の方法3選

WordPressマルチサイト機能が自社の要件や状況に必ずしも合致しないと判断された場合でも、複数のウェブサイトを効率的に管理するための方法は他にも存在します。

ここでは、WordPressマルチサイト以外の代表的なアプローチをいくつかご紹介し、それぞれの特徴と、どのような場合に適しているかを解説します。

1. 複数のWordPressを個別で利用する

これは、最も一般的でシンプルなアプローチであり、管理したいウェブサイトの数だけ、個別にWordPressシステムをサーバーにインストールし、それぞれを独立したサイトとして運用・管理する方法です。

各サイトは完全に分離されているため、それぞれに最適なテーマやプラグインを自由に選択・導入でき、カスタマイズの自由度が高いというメリットがあります。また、一つのサイトで発生した問題が他のサイトに直接影響を及ぼすリスクも低くなります。

一方で、サイト数が増えるにつれて、WordPress本体やテーマ、プラグインのアップデート、バックアップといった管理作業をサイトごとに行う必要があり、管理の手間と時間が飛躍的に増大するという明確なデメリットがあります。各サイトの独立性を最優先したい場合や、サイト数がそれほど多くない場合には有効な選択肢ですが、管理効率を重視する場合には課題が残ります。

2. WordPressを管理するツール・サービスの活用

複数の個別インストールされたWordPressサイトの管理負担を軽減するために設計された、外部の管理ツールやクラウドサービスを利用するという方法もあります。

代表的なサービスとしては、「ManageWP」や「MainWP」、「InfiniteWP」などが挙げられます。これらのツールは、一つの管理画面から、登録した複数のWordPressサイトに対して、アップデートの実行、バックアップのスケジュール設定、セキュリティスキャン、稼働状況の監視などを一括で行う機能を提供します。これにより、個別に各サイトの管理画面にログインする手間を省き、管理作業を大幅に効率化することが可能です。

多くの場合、基本機能は無料で利用でき、自動バックアップ、詳細なレポートなどのより高度な機能は有料プランで提供されています。WordPressマルチサイトのような根本的な構造変更を伴わずに管理効率を向上させたい場合に、有力な選択肢となるでしょう。ただし、これらのツール自体の利用方法を習得する必要があり、サービスによっては月額または年額の利用料金が発生します。

3. ヘッドレスCMSという新たな選択肢

近年、ウェブサイトやアプリケーション構築の新しいアプローチとして、「ヘッドレスアーキテクチャ」およびそれに特化したCMSである「ヘッドレスCMS」が注目を集めています。従来のCMSがコンテンツの管理を担うバックエンドと表示を担うフロントエンドを一体的に扱っていたのに対し、ヘッドレスアーキテクチャはこれらを完全に分離します。ヘッドレスアーキテクチャの中でヘッドレスCMSはバックエンドにあたるコンテンツ管理のみを担います。

ヘッドレスCMSに入稿したコンテンツはAPIという仕組みを通じて配信され、フロントエンドはウェブサイトに限らず、スマートフォンアプリ、デジタルサイネージ、スマートスピーカーなど、様々なデバイスやプラットフォームで自由に開発・表示することが可能になります。ヘッドレスアーキテクチャは、WordPressマルチサイトが抱えるいくつかの課題に対する解決策となり得る可能性を秘めており、次世代のウェブサイト管理方法として検討する価値があります。

ヘッドレスCMSとは

ヘッドレスCMSの「ヘッド」とは、通常ユーザーが目にするウェブサイトのフロントエンドを指します。つまり、「ヘッドレス」とは、この表示部分を持たないCMSという意味になります。

詳しくはこちらの記事をご参照ください。

2025-08-04T04:57:24Z

「ヘッドレスCMS」とは？メリット・デメリットから導入まで

WordPressマルチサイトの課題をヘッドレスCMSで解決する4つの理由

WordPressマルチサイトが抱えるいくつかの課題、特にカスタマイズの制約やパフォーマンス、技術的な柔軟性といった側面において、ヘッドレスCMSは有効な解決策を提示できる可能性があります。

理由1. ヘッドレスでデザインの自由度が向上

WordPressマルチサイトでは、多くの場合参加している複数のサイトで同じテーマを共有する仕組みになっていたり、サイトごとのカスタマイズに一定の制限が加えられたりすることがありますが、ヘッドレスCMSを採用した場合、フロントエンドはWordPressのテーマシステムのような枠組みから完全に独立します。

これにより、開発者はReact、Vue、Angular、Svelteといった最新のフロントエンド技術やフレームワークを制約なく自由に選択し、高度なユーザーインターフェースや独自のユーザー体験をゼロから構築することが可能になります。デザインシステムとの連携や、PWA（Progressive Web Apps）化なども容易になり、WordPressマルチサイトでは実現が難しかった高度な要求にも応えやすくなります。

複数のサイトでコンテンツ管理基盤として共通のヘッドレスCMSを採用しつつ、それぞれのサイトで全く異なるデザインや技術を用いたフロントエンドを構築することも可能です。

理由2. アクセスが集中しても耐えられる

WordPressマルチサイト環境では、アクセス集中時にサーバー負荷が高まりやすいという課題がありましたが、ヘッドレスCMSではフロントエンドの最適化がより効果的に行えます。

例えば、フロントエンドをSSG（Static Site Generation）やISR（Incremental Static Re・eneration）といった技術を用いて事前に静的なHTMLファイルとして生成しておけば、ユーザーアクセス時にはサーバー側での動的なページ生成処理が不要となり、表示速度を劇的に向上させることができます。生成された静的ファイルはCDNを通じて配信することで、サーバー負荷を大幅に軽減し、大量アクセスにも耐えうる高いスケーラビリティを実現することも可能です。

ヘッドレスCMSへのアクセスはコンテンツ更新時やAPI経由でのデータ取得時に限定されるため、WordPressマルチサイトよりも負荷を分散しやすい構造と言えます。

理由3. テーマ・プラグイン依存が解消される

WordPressマルチサイト運用における悩みの一つが、テーマやプラグインの互換性問題でした。ヘッドレスCMSでは、フロントエンド表示はWordPressテーマに依存しないため、テーマの互換性を気にする必要がなくなります。

また、表示に関する機能、例えば、スライダーや特定の表示効果などを実現するためのプラグインも、フロントエンド側で実装することが多くなるため、WordPressプラグインへの依存度を低減させることができます。

これにより、プラグイン同士の競合リスクを減らし、より安定したシステム運用と、技術選定における自由度の向上に繋がります。ただし、コンテンツ管理機能に関わるカスタムフィールドやSEOなどに関するプラグインは引き続き利用することになります。

理由4. セキュリティと柔軟性の向上

WordPressマルチサイトは単一障害点になりやすいというリスクがありましたが、ヘッドレスCMSではヘッドレスCMSとフロントエンドが物理的にも論理的にも分離されます。これにより、例えばフロントエンド側に攻撃を受けても、コンテンツデータが格納されているヘッドレスCMSへの直接的な影響を抑えられる可能性があります。

また、フロントエンドを静的ファイルとして配信する場合、サーバーサイドの脆弱性を突くような攻撃のリスクを低減できます。アーキテクチャの観点からは、バックエンドとフロントエンドをそれぞれ独立して開発・更新・改修できるため、技術的な負債を抱えにくく、将来的な技術トレンドの変化にも柔軟に対応しやすいというメリットがあります。

ヘッドレスCMS導入時の注意点

ヘッドレスCMSは多くのメリットを提供する一方で、その導入と運用には従来のWordPressサイト構築とは異なる知識や体制、そして考慮すべき点が存在します。

まず、フロントエンドの開発には、ReactやVueなどのJavaScriptフレームワークやAPI連携に関する専門的な知識を持つエンジニアが必要不可欠です。社内に適切な人材がいない場合は、外部パートナーとの連携や新たな人材採用が必要となるでしょう。

また、ヘッドレスCMSとフロントエンドを繋ぐAPIの設計や、両者の連携部分における開発・テスト、パフォーマンスチューニングなど、従来の開発プロセスとは異なる工程や考慮事項が発生します。初期開発コストや学習コストが、通常のWordPressサイト構築よりも高くなる可能性も念頭に置く必要があります。

運用面においても、バックエンドとフロントエンド、それぞれに対する監視やメンテナンスが必要となり、トータルでの運用体制やコストについて事前に十分に検討することが重要です。

まとめ｜自社にとって最適な複数サイト管理方法の選択

本記事では、WordPressマルチサイト機能を中心に、そのメリット・デメリット、導入に適したケース、そして代替となる複数サイト管理の方法として、個別インストール、管理ツール、さらにはヘッドレスCMSという新たなアプローチを解説しました。

WordPressマルチサイトは、関連性の高い複数のサイトを一元管理し、運用効率を高める上で強力な機能であることは間違いありません。しかしながら、サーバー負荷、カスタマイズの制約、技術的な複雑さといった側面も持ち合わせており、全てのケースにおいて万能な解決策とは言えません。

重要なのは、「どの方法が絶対的に優れているか」ではなく、「自社の目的、管理するサイト群の特性、利用可能な人材や予算などのリソース、そして将来的な事業計画やウェブ戦略に照らし合わせて、どの方法が最も合理的で、かつ持続可能なアプローチなのか」を見極めることです。

管理の効率化を最優先するならばWordPressマルチサイト、各サイトの独立性と自由度を重視するならば個別インストール、既存の個別サイトの管理負担を軽減したいならば管理ツールの活用、そして最新技術を取り入れ高い自由度とパフォーマンスを追求するならばヘッドレスCMS、といったように、それぞれの選択肢には一長一短があります。

最終的な判断にあたっては、関係部署間で十分に議論を重ね、必要であれば外部の専門家の意見も参考にしながら、慎重な検討と比較を行うことを推奨いたします。